Creator’s File vol.48|千年の時を超えて、想いをむすぶ──京人形 み彌け × WALTZ. 雛人形「むすび」 Vol.2

Creator’s File vol.48 
千年の時を超えて、想いをむすぶ──京人形 み彌け × WALTZ.
雛人形「むすび」を支えるお道具たち
「むすび」では、主役である雛人形の美しさを最大限に引き出すため、厳選した最小限のお道具がオリジナルで作られています。
それぞれのデザインにおけるこだわり、所以などを解説していただきました。

屏風 ――雛人形の存在を引き立てる屏風

WALTZ. 川﨑敏弘(以下:W 川﨑):
古いものや浮世絵などを見ると、いかにも「金屏風」みたいなものは見られず、金の上に絵を描いたものや、無地の紙に絵を描いたものが一般的なようでした。
絵を描くことも考えられなくはなかったのですが、むしろ飽きのこない、風合いの良い無地の紙を貼った屏風の方が、現代の空間にそぐうものになるのではないかと思いました。
ただ、すこしの煌びやかさは残したいと思いましたので、周りに細い金の帯をまわしています。
寸法についてですが、人形のスケールを測ると、等身大の 1/6.5 程度になります。一方、実際の屏風の基本的な高さは 5尺7寸(1730cmくらい)と決まっていて、ひとつの扇(せん)の比率は 1:3 程度らしいので、それを加味してバランスを決定しました。

ぼんぼり ――江戸時代の婚礼に欠かせない灯り

W 川﨑:
ぼんぼりについても古いものや、江戸時代の結婚式の浮世絵などを見ると、ほぼ六角形ものしか見られず、それがとてもシンプルで形も綺麗だなと思ったのでそれを元に設計しました。
調べたところ、江戸時代の結婚式は夜更けに行っていたそうで、それもあってぼんぼりは無いと成立しないものなのだな、と思ったりもしました。

菱餅 ――雪中から萌芽する春の情景をあらわす三色

WALTZ. 靎沢咲子(以下:W 靎沢):
三色の理由は三宅さんからお聞きしましたが、雪の中から新芽が出て、桃の花が咲く、という情景の色合いだそうです。お餅は食べ物なので、実際の菱餅の色味を参考に、やさしい色合いにしました。
私は食べ物のパッケージのお仕事もしているのですが、食べ物らしく見せる・美味しそうに見せる、というのは大事です。そういった部分でも、口に入るものの色、という部分を意識しました。

W 川﨑:
形についてですが、紋に見られる菱の比率にしています。(円を8等分したうち縦を6としたもの)
おおらかで堂々としたバランスですよね。

親王台 ――内裏雛の格式をあらわす親王台

W 靎沢:
親王台の畳縁の色については、全体の中で主張しすぎないけど煌びやかさがあるものを選びました。 金色も入っていますが、畳縁全体が同一のトーンなので、お人形を引き立てます。

収納 ――すべてがひとつに美しく収まる特製のお箱

W 川﨑:
最初に今回の企画のプロデューサーから 「パッケージまで含めたトータルデザインに」というお題をいただいていたこともあり、最初から箱も含めて考えました。
今回はお人形も道具も全てオリジナルで同時進行ということもあって、その都度、出来上がったものに対して寸法調整をして、できるだけ無駄のないコンパクトな箱に仕上げる、というところが大変でした。

京雛の基礎知識
京の都と江戸で異なる、女雛と男雛の配置

一般的にはお殿さんが向かって左、お姫さんが右で飾られていますが、京都はお殿さんが右、お姫さんが左という逆の配置です。これは、京都御所のお席の配置と同じで、北側を背にして南を向いている天皇陛下は日が昇ってくる東側(向かって右)におられるので、それに合わせているんですよ。明治以降に入ってきた西洋の文化では、末広の席では男の人が向かって左側に座ることから天皇家もそれに合わせたため、一般的なお殿さんが向かって左、お姫さんが右という配置になったと聞いています。いまも京雛ということにこだわっていらっしゃる方は、御所と同じ配置にされているようですね。

次代を担う職人への思いが詰まった「み彌け」の雛人形

人形の胴にウレタンボディが用いられることが多い現代、「み彌け」の雛人形の胴には藁を膝には籾殻を用いています。ウレタンボディというのは経年変化やナフタリンなどによる影響にどれだけ耐えられるかがわからないんですよね。20年後、50年後に修理が必要になったとき、ウレタン素材の供給があるかどうかの保証ができないし、藁や籾殻は日本ならではの材料で、100年後でも200年後でも供給はあるんじゃないかと思うんです。作り手として、藁や籾殻は伝統的な京人形の工法だから使っているということもあるけれど、50年後とかに次の世代の人形師が僕の作った人形を開けたときに、手に入る材料がないとだめなんじゃないかな、って思ったりもするので、これからも天然のものを使い続けたいと考えています。

京人形 み彌け 三宅啓介

Photo:Kayo Yamashita
Interview & Edit:Akemi Kaneko(SPIRAL)

京人形 み彌け × WALTZ. 雛人形「むすび」

Profile

「み彌け」三宅啓介(二世三宅玄祥)

初代三宅玄祥のもと幼少年の頃より京人形の製作に携わる。 他の業界での経験を経て、東京都の人形卸店(株式会社宗玉)にて人形業界での修行を積む。
平成6年京都に帰り、京人形の製作に従事。現在に至る。
平成25年Samurai Armor Bag を発表し世界各地の展示会に出展。
平成25年2月経済産業大臣指定伝統的工芸品 京人形伝統工芸士認定




WALTZ. LLC(合同会社ワルツ)

川﨑敏弘と靎沢咲子によって設立されたデザインオフィス。
「事物の潜在的な可能性を柔軟にとらえ、触れた人の心が躍るような、ユニークで明快なコンセプトを構築する」をテーマとして、平面から空間まで多岐にわたるデザインを展開している。
iF DESIGN AWARD 受賞、日本空間デザイン賞、日本サインデザイン賞、東京TDC、JAGDA、世界ポスタートリエンナーレトヤマ入選など。