Creator’s File vol.48|千年の時を超えて、想いをむすぶ──京人形 み彌け × WALTZ. 雛人形「むすび」 Vol.1

Creator’s File vol.48 
千年の時を超えて、想いをむすぶ──京人形 み彌け × WALTZ.
雛人形「むすび」
古くは平安時代にまでさかのぼる雛人形の歴史。子どもたちの健康無事な成長への願いは、千年の時を経たいまも私たちの切なる願いのひとつです。伝統的な京人形の工法を守りながらも、時代の空気を感じ取り変化と挑戦をし続けている「み彌け」とデザインオフィス WALTZ.が考える、令和の雛人形のかたち。 雛人形「むすび」開発の背景には、関わる人すべての想いがつながり、結ばれています。

──一流の職人の分業によって品質を保ち続ける京雛

京人形 み彌け 三宅啓介(以下:三宅):
京都の雛人形「京雛」は、分業によって作られています。お顔はお顔、髪は髪付け師、手足は手足師がそれぞれ作ります。そうやって専門の職人がそれぞれの分野でフルに能力を発揮することで、クオリティの高いものができ、多少高価ではあるけれど品質として安心できるものをご提供できるんです。「み彌け」は、それらの材料(顔や手足)を全て集めて衣装の寸法を決め、衣装をこしらえて、胴を組んで衣装を着せつけて、最終的な雛人形の姿にする着付け師という仕事をしています。京都で京人形が発展した理由は「西陣織」という材料の産地があること、そして京都御所があるのでお公家さんたちが人形をプレゼントするという文化と需要があったことも大きいようです。

──雛人形らしさの追求

WALTZ. 川﨑敏弘(以下:W 川﨑):
プロジェクトが始まったとき三宅さんから、古代の人形(ひとがた)の誕生から雛遊びが生まれて、雛人形に発展していったという流れ、江戸時代以降、明治、大正、昭和でどう雛人形が変化していったのかということをお伺いしました。昭和の高度経済成長期以降は非常に豪華なものが出てきて、道具もいっぱいになったりするのですが、平成、令和になると家のスペースとの関係で簡素化したという現状も聞きました。

WALTZ. 靎沢咲子(以下:W 靎沢):
これまでの反動なのか、今はシンプルでモダンな感じのものが多いな、と思いましたね。

W 川﨑:
うん。でも、現代のシンプル=簡素化という点では、お祝い的な要素がすこし物足りなく感じられたんです。その流れのなかで、自分たちが買うとしたら、やはり雛人形らしいものがいいな、と思いました。ほどよく華やかで、いまの時代に馴染むような──昭和から平成にかけて変化はあったけれど、いまの雛人形の原形である江戸時代のものが現代まで伝わってきていたらどんな姿なのかな?って。美術館に収蔵されているものや浮世絵に描かれている雛人形、あとはモチーフである結婚式の様子が描かれた浮世絵なども調べたりしました。

──女雛と男雛の調和を意識した衣装

W 靎沢:
私はグラフィックデザインをしているので、衣装の色のことはずっと考えていました。日本古来の色って、染料は自然から採取されているので、鮮やかでもどこかに自然を感じられるんですよね。衣装に限らず、当時は身の回りにもそういった自然とのつながりを感じられる暮らしだったのだろうな、って想像をしてみたりして。
女雛は、現代の材料のなかで十二単の配色の決まりを再現するのは難しかったけれど、三月のお祭りなので、春を感じさせる配色にしたいと思いました。そしてお雛さまは結婚式の様子を再現しているので、若々しい淡いグリーンのグラデーションに紅が一色入っている「萌黄のにおい」という配色がいいかなと考えました。

W 靎沢:
男雛は、平安時代の禁色である山鳩色にしました。最近は天皇陛下がお召しになった、黄土色のような黄櫨染(こうろぜん)を用いているものが多いですが、女雛と並んだ時の姿を意識して、全体を緑と紅でまとめられるようにしました。ここは他のお雛さまとの違いにもなりますよね。

三宅:
山鳩色と聞いて、比較的古典的な色合いのイメージで雛人形を作るつもりなんだと思いました。機械やロットによって布の色が変わることはもちろんなのですが、山鳩色といっても布を織る機場(はたば)の人によって意識する色が微妙に違ったりして、再現には苦労しましたね。

──雛人形の美しさを引き出すお道具

W 川﨑:
バブルの時代にどんどん増えていったお道具も、一体どれが重要なんだ?そもそもどういう形なんだ?って過去の資料をかなり調べました。やはり雛人形のセットは小さい方が実際に置きやすいですよね。だから雛人形らしく見える最小限の要素で作りたいと考えたんです。

W 靎沢:
基本的にはお人形が主役なんですよね。でも、一般的なお人形屋さんの扱っているものを見るとかなりの情報量で。

W 川﨑:
調べていくと、お姫さまとお殿さまの間に置かれている道具は、どうやら明治以降に出てきたようだと分かってきて。今回は必要ないかな、って思って外しました。桜と橘の木もスケールが全然違うし、室内に木があるのは不自然なことですよね。そうして、屏風は必要、でも二双がそれぞれの後ろにあるのではなく、一双の屏風の前に並んでいる江戸時代の形式にして。そしてひな祭りだと思い出すあの歌、調べてみると、ぼんぼりは重要な意味を持っていて。あと、菱餅はアイコンとして非常に強いですよね。

W 靎沢:
(川﨑さんは)無類の餅好きだし外せないよね。菱餅の色は理由のある三色だし、意味づけのあるものとして必要でしたね。

三宅:
今回、お道具はWALTZ.さんに全て作っていただいているんです。 ご一緒して驚いたのは、僕は業界の中で材料を調達するのが基本、その中で考えるのが当たり前だったのですが、イメージするものが無ければ自分たちのデザインで一から作り上げれば良いんじゃないか?というクリエイティブなアプローチの仕方ですね。 伝統産業の人って「それまでやったことがないから、それはできひん」って簡単に言ってしまうんですよ。だからこそ「できない」って考えていることに対してアプローチしないと、これからの時代に求められるものは作れないと思うんです。一言で言ったら衰退産業に関わる者としての背水の陣、なのかな。 そういう意味でも今回のプロジェクトは楽しんでさせてもらいましたね。

W 川﨑:
お道具の図面を描いて、これまでのお仕事でお付き合いのある人をいろいろとあたって、最終的に模型屋さんにお願いしたら、すごくよく作れたんです。

三宅:
やっぱり、高いところから鳥の目で物事を見ているというか。自分たちは雛人形は作っているけれど、パッケージのことまでは考えが及ばなかったりして。考えてみたらそういう発想もあったんだな、って。エンドユーザーが欲しいと思うものを作れば、それで良いはずなんだけど、そういう発想は今までなかったですね。

──「むすび」に込めた願い

W 靎沢:
女雛の十二単は最後に着ける「裳(も)」の紐を胸の前で結ぶことで完成するのですが、その結び目というのが特徴的だなと思っていて。「むすぶ」っていろいろな場面で使われる言葉ですよね、人と人とを結ぶ、良縁を結ぶ、そういった意味合いはおめでたくて相応しいなと思って、今回のお雛様を「むすび」という名前にしました。

W 川﨑:
結びにはきっちりする、って意味もあるし。大事にするっていうニュアンスも含まれるかな。

三宅:
かわいらしい名前だな、って思いましたね。女性の方にもすっと受け入れてもらえるような。
良縁を結ぶ、ってよく言いますしね。


Vol.2はこちら

Photo:Kayo Yamashita
Interview & Edit:Akemi Kaneko(SPIRAL)

京人形 み彌け × WALTZ. 雛人形「むすび」

Profile

「み彌け」三宅啓介(二世三宅玄祥)

初代三宅玄祥のもと幼少年の頃より京人形の製作に携わる。 他の業界での経験を経て、東京都の人形卸店(株式会社宗玉)にて人形業界での修行を積む。
平成6年京都に帰り、京人形の製作に従事。現在に至る。
平成25年Samurai Armor Bag を発表し世界各地の展示会に出展。
平成25年2月経済産業大臣指定伝統的工芸品 京人形伝統工芸士認定


≫www.kyoto-miyake.co.jp


WALTZ. LLC(合同会社ワルツ)

川﨑敏弘と靎沢咲子によって設立されたデザインオフィス。
「事物の潜在的な可能性を柔軟にとらえ、触れた人の心が躍るような、ユニークで明快なコンセプトを構築する」をテーマとして、平面から空間まで多岐にわたるデザインを展開している。
iF DESIGN AWARD 受賞、日本空間デザイン賞、日本サインデザイン賞、東京TDC、JAGDA、世界ポスタートリエンナーレトヤマ入選など。


≫www.waltzdesign.jp