Creator's File vol. 46 | イイダ傘店 飯田純久

Creator’s File vol. 46 
イイダ傘店 飯田純久
傘作家・飯田純久さんが主宰するイイダ傘店は、日本各地の産地と工場、クリエイターたちとつながりながら、これまで380種類以上のオリジナルのテキスタイルによる傘を一本ずつ手作りで制作しています。
遊び心と職人技が融合したテキスタイルには、日本のものづくりのこれからに目を向けた、たくさんの試みがつまっています。

─布作りからはじまったイイダ傘店

もともと布が好きで、自分で染めたり織ったりしていたので、自然とその布を使ってどういったものを作ろうかって考えたのが傘作りをするきっかけでした。世の中に売っている傘とはちょっと違うものを考えて、プリントしたものや面白い素材などが布として混ざって、その布で傘を作ったら、世間で目にする普通のものとは違う雰囲気が出せるんじゃないかなって思ったんです。

例えば、雨傘は布に防水性がないといけないのはもちろん、日傘のように針穴のあく刺繍は施せないのですが、今年はじめて雨傘に刺繍をしたものを発表しました。見た目はポリエステル素材に刺繍してあるだけなのですが、コーティングの仕方を変えたり、布目に対しての針の刺し方、刺繍糸の種類などもいろいろ試して完成しました。こういったことはお客様に大きくご紹介したりはしないですけど、僕的には新しい開拓をしているんです。

─傘づくりにおける技術革新

印刷技術の向上とかウェブの発展とか、日々技術革新が進んでいるものが周りにはいっぱいあるけれど、傘の業界は他とはちょっと違って、そういう意味での大きな発展は長年していないと思います。ランドセルみたいに基本の用途や形はずっと変わらないもので、それがちょっとだけ軽くなったり、丈夫になったりする、という感じと同じですね。傘は決まった用途と形があって、そのために使う部品も決まっていて、その制限のなかでいままで見たことがなかった雰囲気や世界観をつくるというのは結構微妙なところで、そこが面白いですね。デジタル技術が物理の世界に入り込むほどの技術革新があったら傘も変わるかもしれないですけれど。

─記憶を呼び起こすスケッチ

イイダ傘店のテキスタイルは食べ物のスケッチを経てモチーフにしたものも多いのですが、食べ物って、食べることが第一の目的で、美味しそうだな、見た目も楽しいな、という感じはみなさんも共通であると思うんですけれど、僕はそういう見た目とはちょっと違って、そのものを少し食べ物じゃないような、グラフィック的に見てしまう感覚がありますね。そういう視点で見た時に、きれいだな、面白いなって感じる瞬間が日常のなかにあって、そういったものを記憶として描きとどめています。

それを見た他の人からしたらスマホで写真を撮ることと似ているように思うけれど、描いている僕からすると何かがあったから描いたんですよね。このグラスの水滴の感じが面白いから描いた、というような自分の視点が絵に出てくるし、どれだけぱぱっと描こうとしても10分くらいはかかるので、その時間ここを意識して描いたっていうのは記憶に残るんですよね。たとえ上手く描けなかったとしても、あの時の麦茶ってこんなで、梅雨が明けた頃のこんな空気感で、冷たくて美味しかった、みたいなことを思い出せますよね。いまだと写真を撮って、そういうことを頭の中で上手く結びつけたりできる世代の人もいるだろうけど、僕の場合はスマホがない時代の感覚を生きてきたのでアナログなんでしょうね。日記とかもそうで、スマホにも書けると思うんですけど、日記帳に書きたいって世代もあるだろうし。その時の気持ちがきれいに言語化されていなくてぐちゃぐちゃってなっているけれど、何かを思い出す、みたいな。

─産地とのつながり

今年イイダ傘店は15周年を迎えましたが、これまで380種類を越えるテキスタイルを発表しています。 多くの方はイイダ傘店のテキスタイルは、絵をプリントしてあるという印象が強いかもしれないけれど、毎シーズン様々な工場に布の制作をお願いしているんです。ほぐし織りの布やミミにジャガードを入れるとか、簡単にはできない技術なんです。全部のテキスタイルを一箇所の工場や職人が手掛けるのではなくて、それぞれ得意とする技術や素材を持った日本各地の工場にお願いしています。

こういった工場も国内にそう多くはなくて、いま残っている産地と技術は昔からするとごく一部だと思います。廃業してしまう工場も多くありますが、世代交代をして続けている工場も結構あって。そういった状況のなかで産地とデザイナーがこれからどのように仕事ができるか、という話も出ています。これまでは産地に行って歩きまわらないと探せないレベルの布屋さんに東京のデザイナーがアクセスできるようにする、日本中の産地をつなぐネットワークを作るという話もここ数年で動き出していたりして。

例えば、以前は布を染める時に使う型作りも同じ産地で行なっていたけれど、片方が廃業してしまうとその産地で布づくりを一括して行なうことができなくなってしまうんですよね。けれど、発想を変えて他の産地で残っている技術をもってきたら作ることができるので、一つの産地で作っていた布をこれからは産地と産地を繋いで日本で作っていく、というイメージですね。

おしゃれで可愛い布をつくるのはきっと、誰でもやろうと思えばできることで、その裏側にある、いかにそれでちゃんと仕事ができあがっていくかが大切で。この試みは僕も布づくりをしているという点で共通しているので仲間たちと共有して拡げていきたいと思っています。産地の人との繋がりなどはとても楽しいし、やりがいがあるところですね。

イイダ傘店のアイテム

ものづくりを支える私の道具
─ 飯田純久 「スケッチブックと絵の具セット」

最初は手帳にスケッチをしていたのですが、スケジュールを書いたりもするので、ちょっと描きづらいな、って思いはじめて、同じメーカーのポケットサイズのスケッチブックを持ち運ぶようになりました。スケッチは実際に見ながら描いて、帰ってきてからこの絵具セットで着彩します。スケッチは描ける時とそうでない時があるので、ゆっくり2年くらいかけて一冊を使い切ることもありますね。 最近は家にストックしてあるいろいろな紙に一枚ずつスケッチを描いて、自分で額装したりもしています。スケッチの方法は今も少しずつ自分の中では進化しています。

Interview:Akemi Kaneko(SPIRAL)
Photo:Heeryeon Lee

Profile

イイダ傘店

傘作家・飯田純久主宰。日傘・雨傘を布地からデザインし、一本ずつ手作りで制作する。店舗はなく、年2 回の受注会とイベント等の販売会で全国を巡回する個人オーダーの傘屋。傘のほかにもテキスタイルデザインから発展させた布モノや紙モノも制作。また映画・舞台などの傘制作や異業種とのコラボレート、その他にも傘にまつわる活動を行う。著書に「イイダ傘店のデザイン」(株式会社パイインターナショナル / 2014年)


イイダ傘店 HP: http://iida-kasaten.jp/
Instagram ID: iidakasaten

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