Creator's File vol. 45 | 古川莉恵 matsurica

Creator’s File vol. 45 
古川莉恵
雨上がりの水たまりでおどる光のように、淡くやわらかな色を放つmatsuricaのガラスジュエリー。
儚く美しいグラデーションを持つ作品は、時の経過とともにゆっくりとその色にも変化が現れるそうです。

─子どもたちと一緒に工作する楽しさを経験して

美術大学を卒業してから、高校や中学の美術の非常勤講師と自身の制作活動を並行して行なっていました。教員を目指していたのではなく、たまたま非常勤講師の仕事のご紹介をいただいたことがきっかけで勤めはじめました。楽しいこともたくさんあったのですが、生徒に成績をつけることが苦痛になってしまって。何か違うな、って思い悩むなかで子どもの美術に興味を持つようになり、7年ほど続けていた非常勤講師を辞めて学童保育で働きはじめました。保育がメインでしたが、子どもたちと一緒に工作するのは楽しかったですね。

実は高校の非常勤講師を辞めるときも、学童に勤めはじめたときも、自分の制作活動をやめようと思っていたんです。周りの友達が結婚や出産をしたり、会社でお給料があがっていくのを見ていて、当時の自分は作品も売れていなくて、だんだん萎えてきちゃったりして。自分のなかでどんどん制作へのモチベーションが下がってきていた頃で、きっぱりやめて新しい仕事に専念しようと思っていたんです。でも、学童保育で子どもたちと一緒に手を動かしていたら、やっぱりすごく楽しくて。もう一回やってみようって思ったんです。ちょうど作家が個人で作品をオンライン販売できるサービスが出はじめたころで、それらを利用しながら「matsurica(マツリカ)」として活動をはじめました。今年で約7年目ですね。

─ 吹きガラスからの転向

美術大学では、吹きガラスの技法で制作をしていました。吹きガラスはとても大きな設備がいるので、大学にいるからこそできることだと思い専攻していました。でも、卒業してからも吹きガラスを続けるには、設備のある時間貸しをしてくれるスタジオに通うしかなく、まだ技術が追いついていない自分にはスタジオの使用料に対して作れる作品の数が少なく、それがだんだん負担になってきてしまったんです。

そこで吹きガラスでの制作をやめ、自分の持っている道具でできる範囲で制作するというテーマを設定しました。その頃は、ガラスを削る機械と接着剤くらいしか持っていなくて、今まで自分で手掛けてきた技法を元に試行錯誤して生まれたのが現在のスタイルです。作品の色も、その頃は色ガラスを持っていなかったので、手元にある色鉛筆で描いて綿棒でぼかす技法を用いました。色鉛筆や絵の具を使った着彩の技法はもともとあるのですが、私は光を通しやすい色鉛筆を使っています。

─時の経過とともに変化する色

作品に使っている描画材が色鉛筆なので、紙に描いた色鉛筆の色が時間とともに色褪せていくように、このジュエリーもゆっくりとガラスの色が淡く変化していきます。当初は私も分からなかったのですが、ある時、お客様からリペアの依頼で作品を預かった際に色の変化に気が付きました。数年をかけてゆっくりと色が変わっていくので持ち主も気が付いていなかったと思います。お客様には時間によって変化していく色もあわせてお楽しみいただけたらと思っています。

─部屋に置いて楽しめるジュエリー

旅が好きなので、旅先で見たものや印象に残ったこと、またアトリエの周辺は自然が豊かなので毎日の通勤途中に目にした自然物や自然現象からインスピレーションを得ることが多いです。メモやスケッチなどはせず、心に残ったものが長い時間をかけて作品のイメージとして反映される感じですね。

私の活動はジュエリーを作りたい、という気持ちからではなくて、自分が考えたガラスの技法がアクセサリーに向いていたから始めたことでした。ジュエリー作家って、その人が自分の作品を身につけているとすごく映えて素敵ですよね。きっとジュエリーとして身に纏うことを機能面や用途も含めて作家がしっかりと考えているからですよね。そういったことは今後の私の課題でもあるのですが、私の場合はいかにきれいなガラスの塊を作るかということに重点を置いて制作をしているので、純粋にきれいだなって思ってくれる人に買ってもらえたら嬉しいですね。

matsuricaのアクセサリー

ものづくりを支える私の道具
─ 古川莉恵 「ラジオとスピーカー」

仕事はお昼ちょっと前にアトリエに来て、だいたい夜の8時くらいまでやっています。その間ずっとこのラジオかスピーカーで何か流していますね。無音なのが耐えられなくて。音が無いと集中ができないんです。でも、このラジオはひとつの局しか受信できないんですよね、アンテナも取れちゃって(笑)。ひとつの局しか聴けないのは、もしかしたら、このアンテナが原因なのかな?

アトリエ訪問:2019年12月25日

Interview:Akemi Kaneko(SPIRAL)
Photo:Heeryeon Lee

Profile

古川莉恵(ふるかわりえ)

2006年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科ガラスコース卒業
同大学同学科ガラス研究室教務補助員(~07)

2013年 中学、高校の美術講師、子供の美術教育機関での勤務を経て「matsurica」の屋号で作家活動を開始。

matsurica HP: https://www.matsuricaglass.com
Instagram ID: matsurica__