アートを暮らしに
Vol.1 「アート作品ってどこで買えるの?」2021.10.15

Spinner Markt(2020)
▲Spinner Markt(2020)
photo : 深堀瑞穂

お気に入りのアートを自宅に飾るって素敵だなぁと思いつつ、いざ買おうと思うと、どこで売っているのか、いくらぐらいで買えるのか・・?わからないことも多くて、ちょっと気後れしてしまいますよね。
このコラムでは、アート作品の購入に興味があるというオンラインストアのスタッフもねが、スパイラルのキュレーター加藤育子にインタビュー。
気になっていたけどなかなか聞けない、アートにまつわるあれこれを皆さんに代わって質問します。

教えて、キュレーター!

加藤

もねさんはスパイラルにお勤めということで、アートやデザインに興味があると思うんですけど、これまで作品を買われたことはあるんですか?

もね

ないんです!
学生時代にデザインを専攻していたこともあって、展覧会はよく見に行きます。
でも作品を買うとなると、ハードルが高くて。インテリアショップで額に入れたポスターを買ったことがあるくらいですね。

加藤

たしかに普段の生活でアートを買える場所って意外と少ないですよね。

もね

ギャラリー(画廊)に行ったこともあるんですけど、値札もないし、レジもないし、どうやって買うんだろうって・・・。

加藤

いきなりギャラリーで買うのは勇気が要りますよね(笑)。

もね

値段もよくわからないじゃないですか、妥当なのか。
この前、素敵だなと思う作品があったんですけど、手のひらに乗るくらいの小さな木の彫刻で15万円って、高いのか安いのか・・・。

加藤

そうですよね、わかります。
私はキュレーターなので、ギャラリストやディーラー(画廊・美術商)と違って価格をつける立場にないんですが、一般的には作家の年齢や展示などの実績、美術館での収蔵実績、作品のサイズや素材・作り方、希少価値、そしてオークションでの落札価格などが作品価格には関連しています。
キュレーターは、作品の価値づけに影響を及ぼしてしまう可能性があるので、作品売買には関与しないというスタンスの方も多いのですが、私自身は国公立の美術館学芸員ではないので、プライベートで作品購入しています。
価格はアートフェア(様々な画廊が一度に集まって美術作品を展示販売する催事)やギャラリーへ行った際に、プライスリスト(作品の価格が記された書類)を目にすることで相場感を掴んでいますね。

Spinner Markt(2020)
▲会場に置かれているプライスリスト (Spinner Markt,2020)
加藤

最近では、SNSやインターネットを通じて直接アーティストから作品を買うケースも増えているようなのですが、最初はギャラリーやアートフェアといった作品の価値をきちんと保証してくれるところで購入することをおすすめします。

もね

アーティストから直接買った方が、サポートにもつながるし良いのかなと思っていました。

加藤

経験豊富な作家なら良いのですが、作品をつくるプロと作品を売るプロ、というのはまたちょっと違う部分がありますね。
作品っていう、一生モノとの出会いなので、価格が適切なのか、その作家がずっと活動していける素地があるのか、その作品の価値が長く続くのか、見定めたプロがおすすめするというのは大事なポイントです。
またすぐに作品が劣化(剥がれたり、崩れたり、色褪せたり)しないか、作品の梱包がきちんとしているか、作品証明書の有無なども重要だと思います。

作品を買う場所も、「プライマリー」と「セカンダリー」に分かれているんです。
「プライマリー」はアーティスト本人から作品を仕入れて(預かって)売る機会ですね、コマーシャルギャラリーとかアートフェアとか。
一方、「セカンダリー」は二次市場という意味で、オークションとか、作品購入者から仕入れて売られているところ。
アートを初めて買う時は、価格や真贋のブレがなく、アフターサービスもきちんとしているプライマリーが良いと思います。

もね

そういう仕組みがあるなんて知りませんでした。とはいえ、プライマリーで買うのはやっぱりちょっとハードルが・・・。

加藤

そんな方はイベントを覗いてみるのも良いですよ。
スパイラルではプライマリーのギャラリーやアーティストと協力して、作品も購入可能な展覧会を開催していたり、年に1回程度ですがアートフェアも実施しています。

spiral take art collection 2017 蒐集衆商photo : Kenta Yoshizawa
▲スパイラルで開催されたアートフェア(spiral take art collection 2017 「蒐集衆商」)
photo : Kenta Yoshizawa
加藤

展覧会では作品に値札が付いていないのですが、受付にプライスリストがあります。
チラシなどの横に置いてあるので、自由に見てみてください。
赤い丸シールがついていない作品は購入可能で、気になる作品があったら受付のスタッフに声をかけていただけると、もう少し詳しく説明を受けられます。
たまに青や緑のシールが貼ってある場合もあるんですが、それは予約が入っていたり、現品は売れてしまったけど版画や写真など別エディション(製作数が限定されている複製作品にはそれぞれの数=エディションが入っている)が購入可能だったりするので、「これって買えるんですか?」と率直に聞いてみてください。
ちなみにスパイラルは聞かれたらご案内するというスタンスで、あまり積極的な接客をしていないので、声をかけられて作品を買うのは怖いという方でも安心です(笑)。

アートフェアの時は、作品のキャプション(作家名やタイトル、素材が書かれた説明書き)に価格も記載しています。
入場無料なので、若手から大御所まで、サイズや素材を眺めながら、価格感を知ってもらう機会として活用していただくのも良いかもしれません。
一般的なアートフェアよりはだいぶ買いやすい、数万円の作品からご用意しています。

ちなみに、作品を購入する時には、作品代の他に「額装代」「梱包・送料」が別途かかるケースがあります。
額装代は、作品価格に含まれていることもありますが、絵画や版画を買う時に作品そのものだけを買うのか、額に入った状態で買うのか、の違いです。
キャンバスに描かれた絵をそのまま飾りたい方もいれば、保存のために額に入れたい方もいるので、ご要望に応じてオプションで発生します。
梱包・送料は、作品を入れるための箱を用意したり、配送するための料金です。
大きな作品だと一般的な配送ではなく、チャーター便になる場合もあるので特別な料金がかかります。

最近では、スパイラルのエントランスや「+S」Spiral Marketの一部店舗でも、日常生活に取り入れやすいサイズと価格帯の作品を紹介していたり、展示作品とスパイラルオンラインストアが連動していたりと、購入しやすいサービスをご用意しています。

▲SICF x Spiral Online Store -view-
▲SICF x Spiral Online Store -view- 会場風景(2021)
加藤

まずはスパイラルで展示を楽しんでいただき、お家に帰って「あの作品、買えるのかな・・」と思ったらオンラインストアを覗いていただいても良いかもしれません。

もね

オンラインでも買えると、だいぶ心理的なハードルは下がります!

加藤

そうですよね。
作品は展示終了後に梱包・配送する事が多いため、購入してすぐに持ち帰れるケースはあまり多くありません。
何度も会場に足を運ばなくても、ご自宅でゆっくり選んで購入できるオンライン販売は便利なサービスだと思います。是非利用してみてください。

Vol.2では、実際におうちに作品を飾る時のヒントについてお話しします。お楽しみに!

スパイラル キュレーター:
加藤育子

Author:Mone Morigaki

東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了後、スパイラル/株式会社ワコールアートセンター入社。ギャラリー担当ならびに同チーフ、マネージャー等を経て、現職。現代美術を中心とする展覧会の企画制作業務をベースに、館内の新規プログラム開発なども担当。担当した主な展覧会に「小金沢健人展『煙のゆくえ』」(2016年)、「Rhizomatiks 10」(2017年)、Ascending Art Annualシリーズ「すがたかたちー『らしさ』とわたしの想像力」(2017年)、「まつり、まつる」(2018年)、「うたう命、うねる心」(2019年)など。

聞き手:
Mone Morigaki(もね)

Mone Morigaki

スパイラル勤務4年目。「+S」スパイラルマーケット二子玉川店にてイベント担当などを経て、2020年よりスパイラルオンラインストアにて商品管理と企画を担当。 お気に入りのカップにコーヒーをなみなみいれて、音楽を聴きながら大きな出窓に腰掛けてぼんやりする時間が至福。ただし愛犬(ゴールデンレトリバー)がいつも邪魔をしにくる。