アートを暮らしに
Vol.2 「アート作品を飾ってみよう!」2021.11.12

あこがれのアート作品。
買ってはみたものの、いざ飾ろうと思うと、賃貸住宅では壁に穴を開けづらいし、ピクチャーレールもないし、どうやって飾ったらいいの?そもそも自宅に絵を飾るスペースがない……。そんな方も多いのでは?
今回はアート作品を購入したスパイラルのスタッフ、Hさんの自宅にて、アートを暮らしに Vol.1 「アート作品ってどこで買えるの?」に引き続きスパイラルのキュレーターが一緒に作品を飾ってみました。
実際の居住空間ならではの、リアルなポイントをご紹介します!

加藤

まずはお持ちの作品を見せてもらっても良いですか?

H

だいたいスパイラルのイベントや展覧会で出会ったものばかりなんですけど……。これは8月に開催された高橋漠さんの個展(※1)で気に入った作品。
こっちは去年のクリスマスに買った小林一毅さんのポスターと原画(※2)、SICF(※3)に出展していた塩保朋子さんの作品、
あとは作品ではないのですが、SPIRALRECORDSのポスターを額に入れています。

※1 BAKU TAKAHASHI Exhibition ─ MENTAL PICTURES #2 ─
※2 IS IT CHRISTMAS YET ? IKKI KOBAYASHI EXHIBITION
※3 Spiral Independent Creators Festival

加藤

けっこう持ってますね!スパイラルで働く前も、作品を買っていたんですか?

H

いや、アートは好きなんですけど、あくまで美術館で見る対象っていう感じでしたね。どうやって作られているのか、何を表現したいのか、なんていうことを考えるのが楽しくて。
ただ当時は「作品を買う」っていう意識はなかったです。

加藤

そうなんですね。今はどういう基準で作品は買われているんですか?

H

うーん、基準っていうのは無いんですけど、自分の考え方に影響を与えてくれそうとか、自分の感覚にピンときたかどうか、ですね。直感的に。
一点ものであれば、これを自分の身近に置いておきたいな、とか。

加藤

今ひとまず並べていただいていますけど、インテリアも含めて、なんとなく統一感がありますよね。
シャープとかモダンっていうより、温かみのある木製のテーブルとか観葉植物とか、ナチュラルで落ち着きがあるけど、北欧スタイルほどシンプル過ぎない感じですね。

H

言われてみるとそうですね。インテリアもあんまりスタイルを意識して揃えたわけじゃないんですけど(笑)
結婚を機に、アーコールのテーブルを買ったので、それを軸に自然と揃ったという感じです。

加藤

ライフイベントって、インテリアについて考えるきっかけになりますよね。

H

そうですね。とはいえ、今は社宅なので、インテリアにこだわるにも限界があるんですけど……。

加藤

そういう制限のある中で、ご家族やご自分が好きな要素をどう取り込むかっていう工夫が、おうちにアートを飾る醍醐味ですよ(笑)!

加藤

では早速飾ってみましょう!
まず、ここに並んだ作品からどれを展示するか決めます。作品を買うと、全部飾りたくなってしまうかもしれませんが、無理をせず空間に合った点数でレイアウトした方がいいですよ。
壁のスペースから考えて、平面作品2-3点、立体作品1-2点くらいが良いと思います。Hさんのおうちは、植物もたくさんあるので、これも一緒に飾っていきましょう。

最初に大きい作品から決めていくと、構成しやすいのでおすすめです。まず、この小林一毅さんのポスターですね、これを壁の一番目立つところに掛けましょう。
少し高さを出してあげて、ピアノに楽譜をおいても邪魔にならず、背の高い植物がぶつからないくらい。左右の位置は、そうですね……例えばピアノの右端と合わせてみると落ち着いたりします。
そこに一旦掛けてみましょうか。

H

うちの壁は、コンクリートに壁紙が貼られていて硬いので、コンクリート用のピンで打ち込みます。(コンコンコン……)

加藤

確かに硬そうですね(笑)。でも、Hさんが選んだピンは壁に跡が残りにくいタイプなので住宅で飾る時に向いています。

H

できました!

加藤

良い感じですね!
あとで少しずらすかもしれませんが、一旦そこに掛けて、他の作品を選びましょう。
次は、右側の棚を使って飾ってみたいと思います。作品を展示する=壁、という意識があると思うんですけど、実は棚も展示には良い場所なんです。 例えば、本棚から一段本を抜いて場所を空けたり、棚の上に「日用品を置かない場所」を作ってみたり。すぐに時計とか書類とか、もらい物のグッズとか置いちゃうと思うんですけど(笑)、我慢して置かない!
そこには、例えば季節のもの、クリスマスツリーや鏡餅、お子さんがいるご家庭であれば雛人形とか、兜飾り。そういうものを「飾るスペース」として設定するんです。
そうすると、1月、3月、5月、12月は埋まっているけど、それ以外の時期は空いているので、その時にアートを飾れます。作品もずっと出しっ放しだと埃をかぶって汚れたり、紫外線で日焼けしたりするので、たまにしまうと良いんです。
だから、季節のものと交代で出し入れするのはおすすめです。

H

なるほど!作品を掛け替えってよく聞くけど、実際はタイミングがないというか、ちょっと面倒だなって思ってたんです。
クリスマスツリーと交換なら確かに収納もできるし、やれそうな気がします。

加藤

季節のものの出し入れって誰しも面倒じゃないですか、衣替えとか(笑)。でも、良い機会だって自分に言い聞かせて、私もやってます。

さて、では棚の展示に戻りましょう。Hさんの家の棚は下に書類が入っているので、上の部分だけを使いましょうか。
先程、左側に大きめの絵をかけたので、アクセントになる立体作品があると良いですね。高橋漠さんのオブジェ、これにしましょう!赤いガラスが、ポスターの赤ともリンクしていいと思います。
棚の右上には植物を置きたいので、左側にします。
Hさんのお家はお子さんがまだ小さくて、作品を落としてしまう危険性もあると思うので……、手が届きにくいように棚の端ではなく少し内側が良いですね。
立体品で安定が悪い時には、ミュージアムジェルや練り消しゴムを使って固定してあげると安心です。

H

こんな感じですかね?

加藤

お、かわいい!
ただ、これだけだとちょっと寂しいので、右側に少し小さめの平面が欲しいですね。塩保さんか、一毅さんの原画ですかね。ちょっと置いてみてもらえますか?

H

今度はどうでしょうか?

加藤

うーん、オブジェと平面、2つだと棚の上のバランスが弱いですね。もう1点、左上の壁に平面があった方が良いかな。
そうすると、一毅さんの作品が2つ並ぶより、少し違う表情のある作品をはさみたいので、塩保さんの作品を左側に、一毅さんの原画を右側にしましょう!
原画は低い位置の方がバランスがいいので、そのまま本を置くような感じで、壁に立てかけてみてもらえますか?

H

立てかける!それは思いつかなかったけど、簡単で良いですね。

加藤

小さめの平面作品だと、立てかけても倒れるリスクが少ないし、気軽に飾れて良いんですよ。フレームに入ったポスターとかも壁に立て掛けても格好いいです。
じゃあ最後に塩保さんの作品を掛けましょう。これはガラスで葉っぱを挟んでいるんですけど、作品を飾る紐とかフックが付いているんでしたっけ?

H

テグス(透明の糸)が付いてますね。

加藤

なるほど。でも、これでさっきのピンを使うと、ガラス越しに見えてしまいそうですね。小さくて軽い作品なので、画鋲で掛けてみましょうか?

H

画鋲ですか!?

加藤

画鋲は、おうちで飾る時に結構便利なアイテムなんですよ。プッシュピンタイプであれば、2つ壁に刺して軽い絵画(キャンバス)も掛けられるし、釘よりは穴も全然小さいので。
位置はもうちょっと上かな、塩保さんの作品の半分くらいの高さが、左隣の作品の下端と合うくらい……。

いいですね!普段、作品を展示する時は感覚的に位置を決めることもあるんですが、こうして指示というか、具体的に言語化して飾っていくのも楽しいですね。

H

僕も、なんだかキュレーターみたいな気分です(笑)。

加藤

たしかに!
おうちに作品がくると、一国一城ならぬ、一家一キュレーターですね(笑)。

では最後に植物を飾りましょう。植物は虫やカビ、湿気など、作品にとってはちょっと苦手な要素もあるのですが、今回飾った作品は額に入っているものとガラスオブジェなので、
距離をとってあげればそこまで気にしなくても良いかと。おうちだと美術館のようにはいかないので、ある程度気楽に付き合うことも大事かもしれません。
ピアノの上には背の低い植物をひとつ足してあげて、棚の右上は作品と同じくらいの高さのものがあれば、それが良いですね。
それにしてもHさんのおうちは植物が豊富……。こんなにたくさん植物があるなんて珍しいですよね。

H

実家でも母親が大量に植物を育てていたので、遺伝子レベルで植物が欠かせないのかも(笑)。

加藤

そうだったんですね!植物と一緒にレイアウトを考えると、メリハリが出るというか、色や質感の多様性が出せるので良いな、と今回発見がありました。

さぁ、これで完成です!どうでしょうか?
一毅さんの作品でメインのトーンをつくって、漠さんの作品をアクセントに。テーブルや棚と合うように平面作品は木のフレーム、塩保さんの作品(葉っぱ)と観葉植物、という感じで作品の個性を出しつつ統一感を持たせてみました。
硬い壁にちょっと苦戦しましたけど、無事飾れて良かった。

H

おーすごい!雑誌に出てくるような部屋になりました!

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スパイラル キュレーター:
加藤育子

Author:Mone Morigaki

東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了後、スパイラル/株式会社ワコールアートセンター入社。ギャラリー担当ならびに同チーフ、マネージャー等を経て、現職。現代美術を中心とする展覧会の企画制作業務をベースに、館内の新規プログラム開発なども担当。担当した主な展覧会に「小金沢健人展『煙のゆくえ』」(2016年)、「Rhizomatiks 10」(2017年)、Ascending Art Annualシリーズ「すがたかたちー『らしさ』とわたしの想像力」(2017年)、「まつり、まつる」(2018年)、「うたう命、うねる心」(2019年)など。